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がん死亡の約3分の1は悪液質が原因

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がん死亡の約3分の1は悪液質が原因
「悪液質」とは、cachexia(悪い状態)いう医学用語の訳語で、明治時代に訳されたまま現在も使われています。
悪液質は心臓や呼吸器の慢性疾患など、がん以外の病気にも 見られるので、がんを原因とするものを「がん悪液質(cancer cachexi)」と呼びます。

がん悪液質は、がんの進行に伴い持続・増悪する慢性炎症状態が、脳神経系・内分泌系・代謝系・免疫系の異常を誘発して、「体と心の衰弱・消耗」と「がんの 急速な増大・転移」を引き起こし死に至らしめる「がんの本質的な病態像」と言えます。
がん悪液質の定義
がん悪液質とは、従来の栄養サポートで改善する事は困難で、進行性の機能障害をもたらし(脂肪組織の減少の有無にかかわらず)著しい筋肉組織の減少を特徴とする複合的な代謝障害症候群です。
病態生理学的には、経口摂取と代謝異常による負のタンパク、エネルギーバランスを特徴とします。

がん悪液質発生の機序(メカニズム)
がん悪液質の発生機序は、いまだ不明な点が多い。
しかし、最近の生化学的、生物学的解析法の進歩により、おぼろげながらではありますが、徐々に解明されつつあります。

腫瘍から放出されるタンパク質分解誘導因子(PIF)などの関与や、神経内分泌系の異常が次第に明らかにされ、中でも、がんと宿り主間の相互反応による炎症性サイトカインの活性化は、種々の代謝異常や食欲不振に深く関与し、重視されています。



最近では、悪液質は種々のサイトカインを介する炎症反応として捉えられるようになってきています。

悪液質は、一般にがんの進行に伴い、次第に死をもたらす不可逆性の栄養不良に進展していくが、がんの種類に依り悪液質が生じにくいものもあり、その進行スピードも様々であります。

悪液質がもたらす栄養不良には、前述のように、根底に全身の炎症反応による代謝異常があり、骨格筋分解の亢進を始め、インスリン抵抗性、脂肪分解の亢進等の異化亢進が見られます。

PIF:最近の研究で、異化状態でユビキチン・プロテアソーム・システムを介して、タンパク分解が起こることが判明しました。
悪液質では、腫瘍が産生する硫酸糖タンパクであるタンパク質分解誘導因子がプロテアソームサブユニットとユビキチン輸送タンパク[ E2(14K)]を介し骨格筋タンパク崩壊に関与します。


EPCRC:上質な緩和ケアの提供を目的とし、欧州連合の研究・技術枠組み計画に関連して設立された国際協力プロジェクト

悪液質の症状
食欲不振、体力低下、倦怠感、抵抗力の低下、筋肉や体脂肪の減少、貧血、低タンパク、浮腫等が見られます。

がん悪液質では選択的な骨格筋量減少が特徴で、体重が30%減少すると、骨格筋が75%減少し死に至ります。

がん悪液質に関連する液性因子
TNF-αは、動物実験では明らかに悪液質を生じ、in vitroでは骨格筋細胞の分化を抑制し、インスリン抵抗性をきたし、ユビキチン-プロテアソーム系のE3リガーゼにより筋細胞が分解されます。

しかし、悪液質患者でのTNF-αの起源は明らかでなく、抗TNF-α抗体投与の臨床研究では、明らかな悪液質改善効果は得られていません。
したがって,悪液質患者の一般的な血中濃度のTNF-αの存在は、他の腫瘍因子や炎症因子に対する促進因子と考えられます。

IL-6は単独で、あるいはTNF-αと共同で、がん悪液質の全身炎症反応を生じるとされています。
悪液質での血中IL-6濃度は、体重減少の程度、さらには生存率と関連します。

しかし、in vivoモデルでは大量のIL-6 投与が必要であり、IL-6 と筋萎縮との関連は明らかでなく、脂肪組織減少へのエビデンスは十分ではありません。

体重減少のある肺癌患者への抗IL-6モノクローナル抗体投与は、食欲不振、易疲労感、貧血を改善するが、除脂肪体重の減少効果はみられていません。

腫瘍特異的因子として、lipid mobilizing factor〔LMF,zinc-α2-glycoprotein(AZAG)〕,proteolysis-inducing factor(PIF)は宿主の異化に関与することが明らかにされています。
しかし、臨床ではそれらの作用は必ずしも明らかではありません。

サルコペニア(筋肉量が減少していく現象)研究では、TGFβファミリーのミオスタチンが注目されています。
動物モデルと癌患者では、ミオスタチンレベルと関連シグナルの増加が報告されています。

ミオスタチンとアクティビン受容体のactivintypeII受容体B(ActRIIb)の悪液質への関与が研究され、癌患者でのアクティビン A増加や骨格筋でのアクティビン A活性化が示されています。
マウスのActRIIbトラップは、マウスの悪液質を抑制し、生存率を30%改善し、それらは、動物とヒトの悪液質に関与すると考えられています。

ミオスタチンは筋の増殖と分化のみならず、糖脂質代謝にも重要な役割を果たすサイトカインであり、さらに骨再生の制御にも関与します。

グルココルチコイド:悪液質は、疼痛による侵害刺激を介した神経内分泌変化と関連し、グルココルチコイド(ステロイドホルモン)は中心的な役割を担います。
グルココルチコイドによる核内受容体コファクターPGC-1β のdown regulation が骨格筋のMAFbx とMuRF1 と関連し、筋萎縮を生じます。
また、インスリン抵抗性減弱も観察されています。

がん悪液質の治療法
前悪液質(体重減少5%以下、食欲不振、代謝の変化)
消化器癌,頭頸部癌では、器質的な機能障害と放射線療法などに付随する状態として、疼痛、嚥下困難、嘔吐、下痢など多様な副作用が生じます。
癌患者は、それらの症状を回避するために、摂食量が減少します。

食の回避は癌の診断前にすでに生じていることもありますが、食欲低下、味覚、嗅覚の変化、早期満腹感、嘔気、嘔吐、下痢、便秘が生じ、摂食量が減少します。
また、うつや不安の情動も食欲低下につながり、癌の存在部位により低栄養の程度は異なりますが、消耗、摂食量低下は、疾患の進展に関連し、病態の規定因子となります。

がん悪液質の治療は、経口摂取が可能であれば、栄養補助食品などで、積極的に栄養補給を行います。

悪液質(体重減少5%以上、BMI20以下と体重減少2%以上、筋委縮と体重減少2%以上、摂食量低下、全身性の炎症)

・サリドマイド:実験では、生存日数の延長は見られたが、体重減少抑制、QOLの改善は見られなかったという症例報告があります。

・ω-3脂肪酸やエイコサペンタンエン酸などの不飽和脂肪酸:炎症性サイトカインを抑制する事から、悪液質の改善効果が報告されていますが、実験では顕著な改善効果が見られなかったので、他の抗炎症剤との併用をお勧め致します。

・プロゲステロン:欧米ではがん悪液質の治療に認可されていますが、実験では、食欲の改善や体重の増加は見られるもののQOLの改善には殆ど効果は見られなかったという症例報告があります。

・インスリン:がん悪液質の患者では、昔から耐糖能異常が見られる事が知られています。
この耐糖能異常は、インスリン分泌の低下やインスリン代謝の促進によっておこり、がん患者では、インスリン受容体の機能も低下していることが報告されています。

このインスリン抵抗性を改善すると、筋肉量や脂肪組織の増加が認められ、栄養状態の改善が認められる報告例があります。
さらに、インスリン投与によっても筋肉量の増加や脂肪組織の増加、安静時のエネルギー消費量などの低下が認められます。

インスリンは、がん細胞の増加に関わる因子ですが、がん悪液質の状態にインスリンを使用してもがん進行は認められないという報告があります。

がん悪液質に対し、インスリン受容体の感受性改善薬やインスリンの投与が効果を持つものと期待されています。

・グレリン:胃から遊離されるホルモンで、タンパク質同化作用があり、摂食に対し促進的に働き、また炎症性サイトカイン類や、IGF-1の増加作用を有する事からがん悪液質の治療薬のターゲットとして期待されています。

国立がん研究センター研究所がん患者病態生理研究分野の上園保仁分野長は、癌悪液質の患者の食思を改善する薬を求めて、漢方薬の六君子湯とグレリン分泌に着目して研究を進めました。

癌悪液質の場合、血中グレリン濃度が高い事に注目。
それはグレリン受容体の感受性が悪い為うまくグレリンが作用しない為と考え、
グレリン受容体の感受性を上がれば、グレリンが上手に効くようになり、食事の摂取量が増え、体重、脂肪、筋肉量も増やすことができる事が分かったのです。

・L-カルニチン:L-カルニチンは、細胞エネルギー産生に於いて必須の分子であり、ミトコンドリアのβ酸化によるアセチルCoAの産生に関与しています。
L-カルニチン量が、がん患者に於いて減少していることから注目され、最近の報告によるとL-カルニチンの投与により進行したがん患者の食欲の改善や筋肉量の増加、疲労感の改善作用が認められています。

・プロアントシアニジン三量体:前述の悪液質液性因子にTNF-α、IL-6が関係している事がわかっています。
プラントシアニジン三量体は、炎症性サイトカインTNF-α、IL-6の産生を抑制します。

・ミリオシン:日本冬虫夏草のツツクホウシタケより単離された成分で、炎症性サイトカインを抑制する事から、悪液質の改善効果が報告されています。