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漢方医学療法について
がん(癌)幹細胞とは
体内のすべての臓器や組織は、臓器・組織ごとにそれぞれの元となる細胞が分裂して作られている事は、前述のとおりです。
この元となる細胞が幹細胞なのです。

幹細胞は分裂して自分と同じ細胞を作り出すことができ(自己複製能)、またいろいろな細胞に分化できる(多分化能)という二つの重要な性質を持ち、この性質により傷ついた組織を修復したり、成長期に組織を大きくしたりできるのです。

細胞の分化と分裂:たった1つの細胞である受精卵が細胞分裂によって約60兆もの細胞からなるヒトの体を形成するメカニズムを解明するうえで、細胞分裂の研究は重要な位置を占めている。
多くの場合、細胞分裂によって元の細胞(母細胞)に似た性質を示す2つの細胞(娘細胞)が生じる。
一方で母細胞とは異なる性質、機能をもった娘細胞を生み出す細胞分裂もあり、これにより体を構成する多種多様な細胞が形成される。
細胞が神経細胞や皮膚細胞といったように特定の性質、機能をもつようになることを分化と呼ぶ。

体を構成する大多数の細胞はこのように分化した機能と構造をもっているが、幹細胞や前駆細胞といったいくつかの細胞は未分化、もしくは分化の程度が低く、細胞分裂によって異なる機能をもつ娘細胞を生じる能力を保っている。
たとえば造血幹細胞と呼ばれる幹細胞は赤血球や血小板といったすべての血液細胞を生み出すことができる。
また、胚性幹細胞(ES細胞)は全能性、つまり体を構成するすべての種類の細胞を作り出す能力を備えている。
このように複雑な構造と機能をもつ生物の発生は、細胞の分裂能力と分化能力に支えられている。
●iPS細胞
:人口多機能性幹細胞(induced pluripotent stem cells)

この様な幹細胞の性質をもったごく少数のがん細胞をがん(癌)幹細胞と言い、がん(癌)幹細胞を起源としてがん(癌)が発生するのではないかという仮説があり、これをがん幹細胞仮説と言いました。

がん幹細胞は1997年、急性骨髄性白血病においてはじめて発見され、その後2000年代になって様々ながん(癌)において、がん(癌)幹細胞が発見されたとの報告が相次いでいました。
そして、2012年8月世界で最も権威のあるイギリスの学術雑誌ネイチャーにがん(癌)の起始細胞はがん(癌)幹細胞であると発表されました。

がん(癌)幹細胞の特徴は

高い増殖力、細胞の不死化(細胞分裂の回数に制限がない)、周辺組織への浸潤や、体内の離れた部位への転移、薬剤耐性等の大きな特徴を持っています。

また、自らと全く同じ細胞を作り出す自己複製能と、多種類の細胞に分化しうる多分化能という幹細胞の性質をあわせ持っています。


この様に非常に厄介な機能を持ったがん(癌)幹細胞は、抗がん剤や分子標的薬などの薬物療法や放射線などの治療法では、がん(癌)幹細胞を死滅させる事ができず、早期発見で癌幹細胞ごと手術で取り去る事が確率の高いがん克服方法なのです。

進展したがん(癌)の克服方法は、自己の免疫を活性化させ、がん細胞の活動を制御しながら体に負担をかける事無く、がん細胞を退縮から消失へと導く方法が唯一と考えられています。

癌化・治癒・再発・転移の定義が変わります
癌化とは、細胞が癌幹細胞化した時点で成立し、癌幹細胞は腫瘍組織全体を供給しながら拡大・浸潤し、宿主を滅ぼす。

治療抵抗性が高い癌幹細胞を根絶することが「治癒」を意味し、一方で、残存癌幹細胞の再活性化は「再発」、癌幹細胞の移動と局所への生着は「転移」を意味する。
すなわち、癌幹細胞こそが腫瘍の源であり、治療の標的である。

癌幹細胞は正常幹細胞と同様に、微小環境(癌幹細胞ニッチ)によって維持されており、癌克服のためには、種(たね)としての癌幹細胞と、それに対応する土壌としてのニッチの両方が治療標的となりうる。

(平成24年国立医療機関及び国立私立大学医学系の癌研究グループが政府機関に提出した科学研究費補助金研究経過報告書からの抜粋転記文です。)

がん(癌)幹細胞ニッチ
従来,がん組織に存在するすべてのがん細胞に無限の自己複製能と未分化能があり、がんを形成できると考えられていました。
これに対して、近年、がんは不均一な細胞集団で、そのなかにごくわずかのがん幹細胞が存在しており、この細胞だけが自己複製能や未分化能を有してがんを形成することができるとする「がん幹細胞仮説」が提唱されています。

がん幹細胞は、ニッチと呼ばれる最適な微小環境に存在し、ニッチとの相互作用によりがん幹細胞性の維持や機能の制御が成されています。

このがん幹細胞ニッチ(腫瘍微小環境)は免疫細胞、炎症細胞、間質細胞、細胞外マトリックス、血管やリンパ管などから構成される。
ニッチは、静止期(細胞周期GO期)分化増殖の2方向のシグナルバランスでがん幹細胞を制御し、また転移や浸潤にも関与していると考えられている。

がん幹細胞が自らを育む環境を作り出すことを発見


(2012年4月26日naturejapanjobs 特集記事より抜粋転記)
東京大学医科学研究所分子療法分野/がん分子標的研究グループの後藤典子特任准教授らのグループは、このほど、乳がんのがん幹細胞が自ら増殖しやすい環境を作り出す分子メカニズムを発見した。

がん幹細胞は、培養すると直径100 μm程度の球状の細胞塊(スフェア)を形成し、このスフェアはがん幹細胞ニッチとなって、がん細胞を増殖させることが知られている。
後藤特任准教授はヒト乳がん組織から得た、がん幹細胞がスフェアを作る条件を遺伝子解析などで詳細に検討した。



HRG-ErbB-PI3 kinase-NFκBパスウエイは、乳がん幹細胞の自己複製能を制御するとともに、さまざまな細胞外分泌タンパク質を産生し、がん幹細胞ニッチ(微小環境)を熟成させる。

その結果、①細胞膜上のErbB3受容体(EGFR:上皮成長因子受容体の一つ)にタンパク質のHRG(heregulin:へレギュリン)が結合すると、スフェア(細胞塊)形成が促進される、②ErbB3受容体へのHRGの結合によって細胞内リン酸化酵素PI3-kinaseとAkt、転写因子NF-κBが次々と活性化し、スフェアが形成される(ErbB-NFkB経路)、③活性化したNF-κBは、細胞の自己複製能を高めるIL8のようなサイトカインやケモカイン、血管新生因子などの産生を促し、がん幹細胞の周囲に分泌して、がん幹細胞ニッチを形成する、というシグナル伝達があることが明らかになった。

がん幹細胞は炎症を起こすNF-κBなどを活性化して免疫細胞を引き寄せたり、新生血管を作らせたりして、自分が生きやすい環境を作る力を持っていた」と後藤特任准教授は説明する。

癌幹細胞の腫瘍マーカーを同定
腫瘍マーカーとは:がんには多くの種類がありますが、中には腫瘍マーカーと呼ばれる、そのがんに特徴的な物質を産生するものがあります。
そのような物質のうち、体液中(主として血液中)で測定可能なものが、いわゆる「腫瘍マーカー」として臨床検査の場で使われています。
(国立がん研究センターホームページを参考)

癌幹細胞を特定するマーカー同定に成功

英国科学専門誌「Nature Genetics」オンライン版に2012年12月3日(日本時間)に掲載されました。

癌幹細胞は、癌組織をつくる種になる細胞であり、癌の再発、転移などの原因になると考えられています。

癌を根絶するためには癌幹細胞の排除が必須であるとの考えに基づいて、癌幹細胞のマーカー(目印)を見いだす努力が精力的に行われ、色々な因子がマーカー候補として挙げられてきました。
しかし、そのほとんどは癌幹細胞だけでなく、正常組織の幹細胞にも発現していることが問題でした。


つまり、それら既知のマーカーを発現する癌幹細胞を排除して癌を治療しようとしても、正常組織の幹細胞も排除されるために、正常組織にも重大な副作用が生じます。

そのような副作用をなくすためには、癌幹細胞のみに発現して、正常組織の幹細胞には発現していないマーカーを見いだして、治療の標的とすることが必要なのです。
しかしこれまで、大腸癌などの固形癌では、そのような癌幹細胞特異的なマーカーは同定されていませんでした。

京都大学医学部 千葉勉 医学研究科教授(消化器内科学)、妹尾浩 同講師、中西祐貴 同大学院生らの研究グループは、癌幹細胞を特定するマーカーとしてDclk1(Doublecortin and CaM kinase-like 1)を同定しました。

本研究の成果は、癌幹細胞を標的とした治療法を開発する上で、これまで大きな障害になってきた問題を一挙に解決する可能性があります。

Dclk1は人の大腸癌でもマウスとよく似た発現パターンを呈していたため、Dclk1発現癌細胞を標的とした人の大腸癌治療の可能性も示唆されました。
したがって本研究をさらに発展させることによって、副作用の少ない、新たな癌治療法開発へ向けた大きな進展が期待できます。

人の大腸癌を対象にした臨床応用を目指して、Dclk1発現細胞を効果的に障害する医薬品開発を検討しています。
また、大腸癌に限らず、その他の多くの臓器の癌でも、同様にDclk1発現細胞を標的とした治療法が可能かどうか、検討を進めています。


がん(癌)細胞の誕生
癌細胞の共通した特徴