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親水性シグナル分子の細胞内へのシグナル伝達

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漢方医学療法について
親水性シグナル分子の細胞内へのシグナル伝達
イオンチャネル連結型受容体
細胞膜を横切ってイオンの流れが起こって細胞膜の内外での電位差に変化が生じ、電流を生じる。そして、細胞内へのイオンを流入させる(Ca2+,Na+、Cl-)

イオンチャネル: 細胞の生体膜(細胞膜や内膜など)にある膜貫通タンパク質の一種で、受動的にイオンを透過させるタンパク質の総称である。
細胞の膜電位を維持・変化させるほか、細胞でのイオンの流出入もおこなう。
神経細胞など電気的興奮性細胞での活動電位の発生、感覚細胞での受容器電位の発生、細胞での静止膜電位の維持などに関与する。


神経系シナプスを介する伝達
受容体に神経伝達物質が結合すると、受容体の構造が変化して、イオンを通過させるチャネルが開閉する。
その結果、膜電位が変化することで、細胞内にシグナルを伝える。
シナプス:神経細胞間あるいは筋繊維(筋線維)、ないし神経細胞と他種細胞間に形成される、シグナル伝達などの神経活動に関わる接合部位とその構造である

イオンチャネル連結型受容体(伝達物質依存性)イオンチャネルの種類例
ニコチン性アセチルコリン受容体、グリシン受容体、GABA受容体(A型、C型)、グルタミン酸受容体、セロトニン受容体3型、イノシトール3リン酸(IP3)受容体、P2X受容体等。
受容体とは呼ばないが細胞の膜電位に反応して作動する電位依存性イオンチャネルがある。



Gタンパク質共役受容体(GPCR, G-protein-coupled receptor)
1000種類以上同定されています。2012年ノーベル化学賞受賞

Gタンパク質(グアニンヌクレオチド結合タンパク質の略称、最も重要なシグナル伝達分子の一つです)を活性化してそのサブユニットを放出し、それを通じて細胞膜のなかの標的となる酵素やイオンチャネルに作用します。

細胞内の生化学的反応を切り替える「スイッチ」としてグアノシン三リン酸 (GTP)グアノシン二リン酸 (GDP)へ替えるため、この名がついています。



脂質二重層を7回貫通する構造をとり、7回膜貫通受容体と呼ばれる。
Gタンパク共役型受容体(GPCR)は真核細胞すべてに存在し、細胞表面受容体の最大のファミリーである。
ほかの細胞からのホルモンや神経伝達物質、局所的仲介物質などはもちろん、外界からのシグナルへの応答のほとんどを仲介する。
視覚、嗅覚、味覚はこの受容体に依存している。

GPCRに細胞外シグナル分子が結合すると構造変化が起こり、三量体GTP結合タンパク(Gタンパク)が活性化する。
Gタンパクはα、β、γの3種類のタンパクサブユニットからできている。

A)α・γサブユニットは短い脂質で細胞膜につながっており、
αサブユニットにGDPが結合している。

B)GDPとGTPの交換によって活性化されたG蛋白は
αサブユニットとβ・γサブユニット複合体に解離し、
それぞれ独自に標的タンパクに直接作用する。

C)αサブユニット自身がGTPアーゼ活性をもつため、
活性化の後すぐにGTPが加水分解されてGDPに戻り、
解離していた両者が再結合してGタンパクは不活性化される。



グアニン・グアノシン二リン酸(GDP)・グアノシン三リン酸(GTP)

サブユニット:他のタンパク質と会合して多量体タンパク質やオリゴマータンパク質を形成する単一のタンパク質分子のことを指す。
主要な例としてヘモグロビン、イオンチャネル、DNAポリメラーゼ、ヌクレオソーム、微小管などがある。
Gタンパクサブユニットの標的タンパク
βγ複合体;イオンチャネル
(例)心筋細胞の細胞膜K+チャネル→βγ複合体が結合するとチャネルが開いてK+が細胞外に流出し、心拍が低下

αサブユニット;膜結合酵素 αサブユニットの結合によって活性化された酵素は細胞内シグナル分子を大量生産する。
この細胞内シグナル分子を特にセカンドメッセンジャーという。
(例)アデニル酸シクラーゼ…ATPからの環状AMP (cAMP)を合成
cAMPは細胞内で常に活性化されているcAMPホスホジエステラーゼの働きによってすぐにAMPに分解されるが、それまでの間に細胞内を拡散し、主としてPKA(cAMP依存タンパクキナーゼ)の活性化による様々な影響を及ぼす。
(すなわちセカンドメッセンジャーはcAMPである)


(例)ホスホリパーゼC:イノシトールリン脂質を加水分解する酵素

イノシトールリン脂質: (Phosphatidylinositol、PtdIns)は、真核生物の細胞の細胞質側に存在する、リン脂質の一つである。

   この加水分解ではイノシトール1,4,5-三リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DAG)が生じる。親水性のIP3は細胞質中を拡散し、小胞体膜のCa2+チャネルに結合してこれを開く。

その結果、細胞質のCa2+濃度が上昇し、細胞膜に残る疎水性のDAGがCa2+と共に働いてPKC(タンパクキナーゼC)を活性化し、細胞内のタンパク質をリン酸化する(この場合、セカンドメッセンジャーはIP3とDAGの両方である)

注)細胞質の遊離Ca2+濃度が急上昇すると、Ca2+結合タンパク(カルモジュリンなど)にCa2+が結合して細胞内での様々な影響が媒介される。
たとえばカルモジュリンはCa2+結合状態でCaMキナーゼと複合体を作り、特定のタンパク質のリン酸化に働く。



細胞内シグナル伝達における分子スイッチ

多くの細胞内シグナルタンパクは、分子スイッチとしてふるまいます。

タンパクキナーゼが1個以上のリン酸基を付加するとスイッチがある方向に動き、タンパクホスファターゼがリン酸基を除去すると逆方向に動きます。

一方は、リン酸化によって活性化され、他方はGTP結合によって活性化されるが、どちらの場合も、タンパク質はリン酸基の付加で活性化され、除去で不活性化されます。



酵素連結型受容体
酵素共役型受容体は、GPCRと同じく膜貫通タンパクであり、リガンド結合ドメインが細胞膜の外側表面にあります。
しかし、細胞質側の領域は三量体Gタンパクと結合するのではなく、自身が酵素活性をもちながら別の活性型酵素と大型複合体を形成するのが特徴です。

おもなグループは6種類あります。
1. 受容体チロシンキナーゼ
2. チロシンキナーゼ会合型受容体
3. 受容体セリン/トレオニンキナーゼ
4. ヒスチジンキナーゼ会合型受容体
5. 受容体グアニル酸環化酵素
6. 受容体様のチロシンホスファターゼ

多くの細胞外シグナルタンパクが受容体チロシンキナーゼ(RTK)を利用します。
細胞表面に結合しているシグナルタンパクの多くも、RTKを使っています。
膜結合リガンドの最大のグループはエフリンで、ヒトでは8種類が同定されています。
受容体は、Eph受容体とよばれ、RTKのなかでやはり最も数が多く、ヒトでは13個の遺伝子があります。



活性化したキナーゼにシグナルタンパクが結合すると、それ自身のチロシンがリン酸化されて活性状態に入ります。

細胞型シグナルタンパクはすべて、活性型RTKのリン酸化チロシンに結合し、モジュール方式のドメイン相互作用でシグナルを先へと渡す助けをします。
接合するタンパク質には、ホスホリパーゼC-γ(PLCγ)などの酵素があります。

SH2ドメインは、リン酸化チロシンを特異的に識別し、活性型RTKや、一時的にチロシンがリン酸化された多くの細胞内シグナルタンパクにこのモジュールをもつタンパク質を結合させます。

エフリン:受容体型チロシンキナーゼファミリーの一つであるEph受容体群(Eph receptors)のリガンド分子群の総称



■受容体チロシンキナーゼの活性化機構
受容体チロシンキナーゼは膜を1回だけ貫通し、それだけでは構造変化が伝わりにくいが、シグナル分子によって2分子の受容体が架橋され、二量体の状態で互いに相手の尾部にある特定の数個のチロシン残基をリン酸化します。
こうして受容体チロシンキナーゼが活性化され、リン酸化チロシン側鎖に細胞内シグナル蛋白が次々と結合し、複合体として様々な経路から多数の生化学的変化の活性化や協調による複雑な応答(細胞増殖など)を引き起こします。



■MAPキナーゼ(MAPK)系;Rasを中心とするシグナル伝達系
(MAPはmitogen-activated protein(分裂促進因子活性化タンパク)の略)
Rasは細胞膜に固定された小型の単量体GTP結合蛋白で、活性型受容体チロシンキナーゼに結合したアダプターを介して間接的に活性化され、連鎖的な一連のリン酸化反応を引き起こしてタンパク質の活性や遺伝子発現を変化させます。



Ras:Rasタンパク質、(Rasサブファミリー、以下Rasと略す)は、低分子GTP結合タンパク質の一種で、転写や細胞増殖、細胞の運動性の獲得のほか、細胞死の抑制など数多くの現象に関わっている分子である。 Rasの異常は細胞のがん化に大きく関わるのでRas遺伝子は原がん遺伝子の一種である。
■MAPキナーゼ系よりも直接的に遺伝子発現を調節する例
①サイトカイン受容体(JAK/STAT系)

受容体に結合したJAK(Janus kinaseヤーヌスキナーゼ)がチロシンキナーゼとして働き、細胞質内の遺伝子調節蛋白であるSTAT(signal transducers and activators of transcription)をリン酸化する。
活性状態のSTATは二量体となって核に移動し、標的遺伝子の転写を促進する。
サイトカインは局所仲介物質として働く蛋白の総称で、細胞増殖、免疫応答、炎症反応などの調節に関与します。



②受容体セリン/トレオニンキナーゼ(TGFβ/SMAD系)
受容体が遺伝子調節タンパクのSMADを直接リン酸化する。
活性状態のSMADは受容体から解離し、別のSMADと複合体を形成して核における標的遺伝子の転写を促進する。
受容体にリン酸化されるのはSMAD2またはSMAD3、そこに結合するのはSMAD4と呼ばれるものらしい。
TGFβ(トランスフォーミング増殖因子ベータ):骨芽細胞の増殖およびコラーゲンのような間葉細胞の合成・増殖を促進し、上皮細胞の増殖や破骨細胞に対しては抑制的に作用する。また、42種類のTGF-βスーパーファミリーというものもあり、これには生物の骨形成に重要な役割を果たしているBMP(骨形成タンパク質)などが含まれる。
SMAD:TGF-βなどの信号を伝達する細胞内のタンパク質で、1~5が知られているSMAD 1や5は、BMP (bone morphogenetic protein) によって活性化され、SMAD2、3はアクチビンやTGF-βによって活性化され、SMAD4と複合体を形成して核へ移行し、転写調節を行うとされる。




細胞内シグナル伝達系の機能
細胞膜上の受容体が受けたシグナルは、細胞内シグナル分子:セカンドメッセンジャーを使った巧妙な伝達系で伝えられていく。

この伝達系:細胞内シグナル伝達系には次のような重要な機能がある。

1.シグナルを変型または変換して、伝達に適した、応答を引き出せる形の分子にする。
2.シグナルを受領したところから、応答の生ずるところまで伝達する。
3.しばしばシグナルを増幅し、大きな応答を引き起こす。
4.シグナルを配分し、いくつかの反応系に同時に影響を及ぼす。
5.シグナルの効果を細胞内外の条件に合わせて調節できる。


このセカンドメッセンジャーにはcGMP,cAMP,カルシウムイオンなどの小分子もあるが、その大部分はタンパク質である。これらのタンパク質の多くは分子スイッチとして機能する;つまり、シグナルを受けると活性化し、伝達経路のほかのタンパク質を刺激するのです。

スイッチタンパクのかなりの部分はリン酸化によってその活性が切り替えられる。

シグナルのスイッチ

リン酸化する三つのアミノ酸(タンパク質)セリン・スレオニン・チロシン
スイッチON キナーゼ(リン酸化酵素)
 活性化 シグナルを伝達
スイッチOFF フォスターゼ:(脱リン酸化酵素) 不活性化


受容体と受容体タンパク分子
細胞からの増殖促進シグナル(細胞増殖の始まり)