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造血幹細胞と造血幹細胞ニッチ

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漢方医学療法について
造血幹細胞と造血幹細胞ニッチ

成人の骨髄では毎日数千億個の血液細胞が作られるがその大元になっているのは、ごく少数の造血幹細胞です。
造血幹細胞は細胞分裂すると一つは完全な自己複製された細胞となり、もう一つは血液細胞への分化の道をたどり始めます。

血液細胞への分化の道をたどり始めると造血前駆細胞となり盛んに細胞分裂をして数を増やしながら成熟した血液細胞へと分化・成熟していきますが、一旦分化・成熟の道をたどり始めると大本(おおもと)である造血幹細胞には戻ることは出来ず、またその増殖も盛んではありますが有限であり、造血幹細胞による新たな前駆細胞の供給が無いと一生に渡って血液細胞を供給し続けることは出来ません。
その為、少数の造血幹細胞が枯渇しないように、あるいは変質しないように保護する仕組みが必要となります。
造血幹細胞は、骨髄内の特定の場所で支持細胞と接着し支持細胞によって眠らされ大事に保護されていますが、必要なときには目覚めさせられて2つに分裂し、一つは造血幹細胞の状態を維持し(自己複製)また元のよう支持細胞による環境で眠りにつき、もう一つは支持細胞の元を離れて盛んに分裂し数を増しながら血液細胞への分化の道をたどることになります。

そのような、骨髄において造血幹細胞と支持細胞などが織り成す微小環境を造血幹細胞ニッチと呼びます。

造血幹細胞ニッチには、骨髄の奥深く内骨膜上で特定の性質を持つ骨芽細胞を中心に細網細胞(CAR細胞)など多種類の細胞によって構成され静的な骨芽細胞性ニッチ(Osteoblastic niche)と、骨髄内血管である類洞血管の血管内皮細胞を中心とし他にはCAR細胞などからなる、動的な血管性ニッチ(Vascular niche)の2つが考えられています。

造血幹細胞とニッチの構成細胞は造血幹細胞の保持に関わる因子や増殖に関わる因子、アポトーシスに関わる因子など多くのサイトカインケモカインで相互に様々な制御を行っていると考えられています。

造血幹細胞(hematopoietic stem cell - HSC)とは血球系細胞に分化可能な幹細胞です。
ヒト成体では主に骨髄に存在し、白血球(好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球、マクロファージ)、赤血球、血小板、肥満細胞、樹状細胞を生み出します。
血球芽細胞、骨髄幹細胞とも言います。

幹細胞の定義として、一個の細胞が分裂の結果2種類以上の細胞系統に分化 (differentiation) 可能であると同時に幹細胞自体にも分裂可能であり(self renewal: 自己複製)結果として幹細胞が絶える事なく生体内の状況に応じて分化、自己複製を調整し必要な細胞を供給している事になります。

血球系の細胞には寿命があり、造血組織より供給されなくなると徐々に減って行きます。
この寿命は血球の種類によって異なり、ヒトでは赤血球(約120日)、リンパ球(数日から数十年)、好中球(約1日)、血小板(3~4日)などです。

ヒトの造血組織は骨髄内に存在しますが、全ての骨の骨髄で造血が行われる訳ではなく、胸骨、肋骨、脊椎、骨盤など体幹の中心部分にあり、扁平骨や短骨で主に行われます。
その他の長管骨の骨髄では出生後しばらくは造血機能を持ちますが、青年期以降は造血機能を失い、加齢とともに徐々に辺縁部位が脂肪組織に置き換わって行き、最長の大腿骨でも25歳前後で造血機能を失います。

なお、発生直後から骨髄で造血されているわけではなく、骨髄造血が始まるのは胎生4ヶ月頃からです。
それ以前は、初期は卵黄嚢(らんおうふくろ)で、中期は肝臓と脾臓で造血されます。
なお、肝臓と脾臓(ひぞう)は造血機能を完全に失うわけではなく、血液疾患時には造血が見られることもあります。

骨髄には造血細胞だけでなく、脂肪細胞、マクロファージ、間葉幹細胞などが存在し、造血細胞の中にも、分化した上記血球系細胞およびそれらの前駆細胞が存在しています。
多分化能を保った造血幹細胞はこれらの中のごく一部であり、最新の学説においては、骨組織と骨髄の境界領域に高頻度に存在し、骨組織内の骨芽細胞(osteoblast)との接触がその維持に重要と考えられています。(造血幹細胞ニッチ)


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