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ビタミンDは健康とかかわりが深く、がんとの関係も深い

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ビタミンDは健康とかかわりが深く、がんとの関係も深い
ビタミンDとは
ビタミンD (vitamin D) は、ビタミンの一種で、脂溶性ビタミンに分類されます。
ビタミンDはさらにビタミンD2(エルゴカルシフェロール、Ergocalciferol)とビタミンD3(コレカルシフェロール、Cholecalciferol) に分けられ、ビタミンD2は植物、特にキノコ類多く含まれ、ビタミンD3は動物、特に魚肉に多く含まれ、ヒトではビタミンD3が重要な働きを果たしています。

ビタミンDの機能
ビタミンDは、活性型ビタミンD(カルシトリオールまたは、1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール)として、次の方法により血中のカルシウム(Ca2+)濃度を高める作用があります。
1.腸からカルシウムの吸収を高め血中濃度を高める。
2.腎臓の働きによりカルシウムの血中から尿への移動を抑制する。
3.骨から血中へカルシウムの放出を高める。

また、ビタミンDは免疫反応などへの関与も示唆されています。
作用機構および機能の多様性から、ビタミンAとともにホルモンに分類されることがあります。
ビタミンとは人体で合成できない微量栄養素という意味なのです。
その観点からはビタミンDはコレステロールから人体内で合成ができるためビタミンではないという意見もあります。
しかし、消化管からのビタミンDの吸収が低下すると容易にビタミンD欠乏症になることから外因性のビタミンDは不可欠です。

ビタミンDの皮膚での生成
コレカルシフェロール(D3)は、皮膚で7-デヒドロコレステロールから光化学的に生成されます。
7-デヒドロコレステロールは、ヒトを含むほとんどの脊椎動物の皮膚中で大量に生成され、 ビタミンDの生成に効果のある波長300nm付近の紫外線(UV-B線)はドルノ線と呼ばれています。
ヒトにおいては、午前10時から午後3時の日光で、少なくとも週に2回、5分から30分の間、日焼け止めクリームなしで、顔、手足、背中への日光浴で、十分な量のビタミンDが体内で生合成されます。

ビタミンDの生成メカニズム(ビタミンD3)
コレステロールが代謝を受けてプロビタミンD3(7-デヒドロコレステロール)となったあと、皮膚上で紫外線を受けてステロイド核のB環が開き、プレビタミンD3((6Z)-タカルシオール)となる。
プレビタミンD3は、自然発生的にビタミンD3(コレカルシフェロール)へ異性化する。
プレビタミンD3からのビタミンD3(コレカルシフェロール)への転移は、室温では12日間で完了する。

皮膚で産生されたものであれ経口摂取されたものであれ、ビタミンD3(コレカルシフェロール)は、肝臓でC25の位置でヒドロキシ化の代謝を受け 25-ヒドロキシコレカルシフェロール(別名25(OH)D3 、カルシジオール)へと変化し肝細胞に貯えられ、必要なときにα-グロブリンと結合しリンパ液中に放出される。
なお、Cの番号はステロイドやコレステロールの構造と炭素の番号に由来する。

カルシジオールは、腎臓の尿細管に移送され、2つの種類のビタミンDの型に変化する。一つは活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシビタミンD3 、カルシトリオール)となる。

ヒドロキシ化されたC1は下側リング右側に位置する。
ホルモン作用を有する活性型ビタミンD(カルシトリオール)は、副甲状腺ホルモンに加えて低カルシウム、低リン酸状態により活性化したカルシジオール-1-モノオキシゲナーゼ(1α-ヒドロキシ酵素)によって生成される。

1α-ヒドロキシ酵素が不活性な場合には、別の酵素がカルシジオールのC-24をヒドロキシ化して、もう一つの非活性型ビタミンD(24,25-ジヒドロキシビタミンD3)を生成する。
この反応によりカルシジオールは生化学的な作用から不活性化される。

また、不要となったカルシトリオールは、カルシトリオール24-ヒドロキシラーゼの触媒作用によってカルシトロン酸が生成される。
この物質は、水に溶け、尿中に排泄される。

ビタミンDの作用メカニズム
カルシトリオールは、循環器系に放出される。
リンパ液中の輸送物質であるビタミンD結合タンパク質(VDBP)と結びついてカルシトリオールは、様々な対象臓器に運ばれる。

カルシトリオールは、対象細胞の細胞核内に主に所在するビタミンD受容体(VDR)と結びついてその生体効果を発現する。

カルシトリオールとビタミンD受容体(VDR)との結びつきは、腸内でカルシウム吸収に関わっているように ビタミンD受容体が(TRPV6(腸内でのカルシウム吸収の第一段階をつかさどる膜カルシウムチャンネル)やカルビンディン(腸及び腎臓でのビタミンD依存型のカルシウム結合タンパク質として初めて発見されたカルシウム結合タンパク質) のような輸送タンパク質の遺伝子発現を調節する転写因子として作用させることである。

ビタミンD受容体は、ステロイド/甲状腺ホルモンの核内受容体の一群に属している。
脳、心臓、皮膚、生殖腺、前立腺及び乳房を含むほとんどの臓器の細胞で作用している。

腸、骨、腎臓及び副甲状腺の細胞でのビタミンD受容体の活性化は、(甲状腺ホルモン及びカルシトニンの補助により) 血中のカルシウム及びリン酸の濃度の維持及び骨密度の維持を司っている。

ビタミンD受容体は、細胞の増殖と分化に関わっていることが知られている。
ビタミンDは免疫システムにも影響を及ぼしているし、ビタミンD受容体は、単核白血球、活性化T細胞及びB細胞を含むいくつかの白血球で作用している。
ビタミンD受容体以外の様々なメカニズムの作用が知られている。 これらの作用のうち重要なものの一つとして形態形成に関わるホルモンなどシグナル伝達経路によるシグナル伝達の天然の酵素阻害剤としての作用がある。

ビタミンDが不足すると
高血圧、結核、、歯周病、多発性硬化症、冬季うつ病、末梢動脈疾患、1型糖尿病を含む自己免疫疾患などの疾病への罹患率上昇と関連している可能性が指摘されている。

パーキンソン病と低いビタミンDレベルとの間には関連があるが、パーキンソン病が低いビタミンDレベルを引き起こしているのか、低いビタミンDレベルがパーキンソン病を引き起こしているのかはわかっていない。

過剰症
高カルシウム血症、肝機能障害、腎臓障害、多飲・多尿、尿路結石、尿毒症、高血圧、易刺激性(不機嫌)、腹痛、発熱、発疹、かゆみ、 吐き気または嘔吐、食欲不振、便秘、虚弱、疲労感、睡眠障害、歩行困難、体重減少、貧血、脱毛、けいれん、昏睡など。

カルシジオール (25-hydroxy-vitamin D) として人の体内に貯蔵されているビタミンDの半減期は20日から29日である。
通常、活性型ビタミンDの生合成は厳密に調節されており、過剰のビタミンDを摂取した場合にのみ毒性が認められる。 食品やビタミンD製剤の濃縮レベルは、成人にて毒性を認める量と比較するとはるかに低い量である。

ビタミンD 疾病との関連
ビタミンD受容体結合体は、ナチュラルキラー細胞の活動とマクロファージの食作用を活発化させることが示されている。
活性ビタミンDホルモンは、バクテリア、ウイルス、菌類によって活性化されるマクロファージで産生される抗菌性ペプチドのキャセリシジン(英)を増加させる。

ビタミンDと高緯度で比較的発症例の多い免疫異常が原因の可能性がある多発性硬化症との関係においては、ビタミンDの免疫反応の抑制特性と、多発性硬化症を遺伝的に発症しやすい個人の自己タンパク質と異種タンパク質の相違の識別に必要な組織適合遺伝子 (HLA-DRB1*1501(全身性エリテマトーデスの古典的遺伝子マーカーとして知られている))のプロモーターにビタミンD応答配列(VDRE)があるため遺伝子の発現にビタミンDが必要とされること、が関係すると示唆されている。

妊娠中のビタミンDサプリメントの服用が子供の成長ののち多発性硬化症を発症する可能性が低まるかどうかは、まだ分かっていないが、ビタミンD の生体防御機構がアレルギー性疾患の蔓延を引き起こしているのではないかとも疑られており、 幼児期のビタミンDサプリメントの摂取と成長後のアトピーとアレルギー性鼻炎のリスクの増加との関係が見出されている。

しかし、妊娠期のビタミンD不足と子供のアレルギー発症が相関し、また臍帯血のビタミンD濃度と子供のアレルギーにはU字型の相関が見られるという研究もあり、エピジェネティックな仕組みが関与している可能性も指摘されている。

ベテランのビタミンD研究者 のヘクター・デルカは、ビタミンDが多発性硬化症に影響を及ぼすかどうかには疑問を抱いている。

インフルエンザ予防になる?
ビタミンD生合成の減少は、冬におけるインフルエンザの高い罹患率を説明できる可能性があるが、冬にインフルエンザが流行するのはビタミンD生合成の減少以外の仮説(乾燥、低温、日照殺菌低下等)を立てることができるとしている。

2010年3月にアメリカ臨床栄養ジャーナルに発表された無作為抽出、二重盲検法、プラセボ(偽薬)対照試験の結果では、冬季に毎日1,200IUのビタミンD3を摂取した生徒群は、プラセボを摂取した生徒群に比較して、42%も季節性インフルエンザに罹患する率が低かったとしている。

癌予防との関連
ビタミンDの分子的特質は、癌の防止に関して癌の増殖の主たる細胞メカニズムに幅広い範囲で潜在的に関わっていると考えられている。

これらの効果は、癌細胞でのビタミンD受容体を媒介している可能性がある。ビタミンD受容体(VDR)遺伝子の多型現象は、乳癌のリスクの増加に関わっている。
女性におけるビタミンD受容体遺伝子の変異は、乳癌のリスクを増加させている。

米国では日照の少ない緯度の高い地域での大腸癌、乳癌、卵巣癌、多発性硬化症の相対的な多発が指摘されている。

13カ国の400万人以上の癌患者のデータを用いた2006年の研究では、日照の少ない国での特定の癌のリスクの顕著な増加が示され、その他の関連研究でもビタミンD濃度と癌の間の相関関係が示されている。

この著者は、毎日 1,000IU(25μg)のビタミンDの追加摂取はヒトの大腸癌のリスクを50%減少させ、乳癌と卵巣癌のリスクを30%減少させると示唆している。
血清中の低濃度のビタミンDは、乳癌関連疾患の進行と骨転移に相関があるとしている。


しかしながら、住民のビタミンD濃度は、晒されている日照に依存していないとする報告がある。
さらには、高緯度地域で一般的な癌の発生率と死亡率には遺伝的要素が関わっているとする報告もある。

2006年の研究では、2つの長期健康調査による12万人以上の調査対象者でビタミンDの米国摂取基準(400 IU/日)の摂取により、膵臓癌のリスクを43%減少させたとする。

しかしながら、男性喫煙者では、25-ヒドロキシビタミンDの血中濃度が最大の群と最小の群(5分割群)を比較して3倍の膵臓癌のリスクがあるとした。

2007年6月に発表された無作為に抽出された1200人の女性を対象とした研究では、ビタミンDの摂取(1,100 IU/日)は、4年間の臨床試験で、癌の発生率を60%減少させ、最初の1年後では77%減少させたとしている(なお、ビタミンDの投与前に起因していたと思われる癌は除かれている)。

ビタミンDの摂取の別の研究で発見された長期間にわたる癌全般の増加を考慮に入れていないことを含め、幾つかの点でこの研究は批判されているにもかかわらず、カナダ癌学会(全国規模の有志による組織)は、成人は1日1,000IU(政府の発表した必要量の5倍)を摂取すべきと2007年に勧告している。

アメリカ国立癌研究所の研究は、第3回米国全国健康栄養調査のデータにおける17歳以上の16,818人の対象群の血中で循環しているビタミンD濃度と癌死亡率との関係を分析した。

その結果、25-ヒドロキシビタミンD と全癌死亡率との関連は見出されなかった。
他の研究とは異なりこの研究は、実際の血液検査からビタミンDの総量を測定しようとして、むしろ潜在的に不正確な予測モデルからビタミンD濃度を推論しようとしていたのではないかとも指摘されている。

アメリカ国立癌研究所は、ビタミンDの摂取が大腸癌及びその他の癌の予防効果について限定されているか証拠が不十分なので、大腸癌及びその他の癌の予防のためにビタミンDサプリメントの摂取を勧奨はしないとした。

消化液の胆汁酸が腸内で二次胆汁酸に変化すると、その一部が発癌を促進する。
この二次胆汁酸にカルシウムが結合することで無毒化されて便中に排泄されるという説がある。

また、カルシウムはビタミンDと一緒に腸粘膜細胞の分化などを正常化する作用も実験的に示されているとしている。
また、カルシウムとビタミンDの両方を多く摂取するグループで大腸癌のリスクが低下するとの報告がある。