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TGF-β(トランスフォーミング増殖因子β)
トランスフォーミング増殖因子βは、様々な癌によって分泌される免疫抑制性 サイトカインで、細胞増殖、成長、分化 や運動性を調節します。

上皮間葉転換とTGF-β
消化管や肺の気道などの管腔は1層の上皮細胞という細胞によって覆われていて、80%以上の癌はこの上皮細胞から起こると言われています。
上皮細胞はさまざまな刺激で間葉系細胞と呼ばれる細胞に分化し、これを上皮間葉転換(EMT)と呼びます。

EMTはさまざまな刺激のなかでもTGF-βが上皮細胞に作用するとEMTが起こりやすくなります。
EMTを起こすと、細胞間の接着性が低下し、その細胞間をすり抜けて癌細胞が浸潤や転移をするのです。

癌細胞の浸潤は組織の破壊と再編を伴っており、そこにはプロテアーゼが関与しています。
実際に、癌組織では様々な細胞外プロテアーゼの過剰発現や活性の亢進が認められています。
このことから考えると、これらのプロテアーゼ活性を抑制してやれば、癌の転移や浸潤を防ぐ事ができると考えられます。
転移や浸潤に一番関与しているプロテアーゼは、マトリクメタロプロテアーゼ(MMP)です。

日本冬虫夏草ミジンイモムシタケは、マトリクメタロプロテアーゼの阻害効果が確認されています。

血管新生とTGF-β
癌の組織は、癌細胞とこれを取り巻く様々な細胞から成り立っています。
なかでも血管の働きは重要で、血管が癌の組織に侵入してくると癌細胞に酸素や栄養分が送られるだけでなく、入ってきた血管に癌細胞が入り込んで遠くの臓器に転移して行くためのルートともなることから、癌組織における血管新生を抑えることで癌の進展を抑制することができると考えられています。

しかし、スキルス胃癌の場合TGF-βの作用を遮断するとトロンボスポンジンという血管新生を抑えるタンパク質が作られなくなり、その結果血管新生が強く見られ、癌の増殖が促進されることがわかりました。
このことからスキルス胃癌ではTGF-βはむしろ善玉タンパク質として働いており、TGF-βの作用を増強させたり、血管新生を抑えたりすることでスキルス胃癌の進展を抑えることができる可能性が示されました。

癌幹細胞とTGF-β
脳腫瘍幹細胞ではTGF-βは癌幹細胞としての性質を維持する上で重要で、TGF-βの作用を遮断すると癌幹細胞が分化した細胞となることがわかりました。
TGF-βはここでは悪玉タンパク質として働いていることになります。

一方スキルス胃癌では、脳腫瘍幹細胞とは逆にスキルス胃癌幹細胞は、TGF-βを加えるとその数が減少することが分かりました。
このことは、癌の種類によってTGF-βの癌幹細胞に対する作用が大きく異なることがわかりました。

TGF-βは癌によって善玉にも悪玉にもなる
TGF-βの作用は複雑で癌の進行にとっては時には悪玉タンパク質となり、時には善玉タンパク質となります。
「癌には個性がある」とは古くから言われていますが、TGF-βは癌の個性によって善玉になったり悪玉になったりします。


Th17細胞
Th17細胞とは、免疫システムにおけるヘルパーT細胞の一種で、特に病原細菌やカビ類に対する感染防御に極めて重要な役割を果たしていることが知られている。
一方でその過剰応答が、慢性関節リウマチやクローン病、潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患に深く寄与していて、近年、これら疾患の発症メカニズムの解明と治療の観点からも非常に注目されている細胞です。

通常、Th17細胞は腸管だけに存在しているが、2009年に梅崎・本田博士らによって、セグメント細菌(SFB)が腸管のTh17細胞を特異的に誘導することが発見された(論文Cell,139:485-98)。

Th17細胞は、細菌や真菌に対する感染防御に役立っているが、一方でその行き過ぎた応答が自己免疫疾患である慢性関節リウマチやクローン病・潰瘍性大腸炎などに関わることが知られている。
したがって、腸内のセグメント細菌の働きをコントロールできれば、感染症や自己免疫疾患の予防や治療に役立つ可能性が考えられる。

TGF-βは癌によって善玉にも悪玉にもなる
TGF-βの作用は複雑で癌の進行にとっては時には悪玉タンパク質となり、時には善玉タンパク質となります。
「癌には個性がある」とは古くから言われていますが、TGF-βは癌の個性によって善玉になったり悪玉になったりします。


TIM-3(免疫チェックポイントたんぱく質)
TIM-3(T-cell immunoglobulin and mucin containing protein-3)免疫グロブリンスーパーファミリーに属する膜タンパク質で、CD4陽性Th1細胞あるいはCD8陽性T細胞に発現し、ガレクチン-9(galectin-9)、phosphatidylserie(PtdSer)、CEACAM-1、およびhigh mobility group box-1(HMGB1)の4つのリガンドと結合することが報告されています。
これらのうち、galectin-9およびCEACAM-1はCD8陽性T細胞制御に、HMGB1およびPtdSerは自然免疫システムに関与することが知られています。

このTIM-3シグナルを抗TIM-3抗体により阻害することにより抗腫瘍免疫応答を増強できることがマウスにおいて実証されており、現在、ヒトへの応用が試みられています。


TLR(Toll様受容体Toll-like receptor:TLR)
動物の細胞表面にある受容体タンパク質で、種々の病原体を感知して自然免疫(獲得免疫と異なり、一般の病原体を排除する非特異的な免疫作用)を作動させる機能がある。
脊椎動物では、獲得免疫が働くためにもToll様受容体などを介した自然免疫の作動が必要である。

TLRまたはTLR類似の遺伝子は、哺乳類やその他の脊椎動物(インターロイキン1受容体も含む)、また昆虫などにもあり、最近では植物にも類似のものが見つかっていて、進化的起源はディフェンシン(細胞の出す抗菌性ペプチド)などと並び非常に古いと思われる。
さらにTLRの一部分にだけ相同性を示すタンパク質(RP105など)もある。

TLRやその他の自然免疫に関わる受容体は、病原体に常に存在し(進化上保存されたもの)、しかも病原体に特異的な(宿主にはない)パターンを認識するものでなければならない。そのためにTLRは、細菌表面のリポ多糖(LPS)、リポタンパク質、べん毛のフラジェリン、ウイルスの二本鎖RNA、細菌やウイルスのDNAに含まれる非メチル化CpGアイランド(宿主のCpG配列はメチル化されているので区別できる)などを認識するようにできている。

TLRは特定の分子を認識するのでなく、一群の分子を認識するので、パターン認識受容体という言い方もされる。
TLRの機能は知られているすべての生物で似ているため、基本的には同一モデルで説明できる(ただし少なくとも昆虫では活性化の様式が異なる)。
各TLRは、病原体のもつ特異的分子(または分子の特異的な組合せ)により活性化されて二量体を形成することで機能する。

多くのTLRはホモ二量体(同種分子からなる)として働くが、TLR2はTLR1やTLR6との間でヘテロ二量体をつくり、これらは互いに特異性が異なる。
またTLRは完全な機能を得るのに他の補助因子が必要なこともあり、この例としてはTLR4がある。
全てのLPSの認識にはMD-2が必要であり、CD14とLPS結合タンパク質(LBP)はLPSのMD-2への提示を促進することが知られている。

このようにして活性化されたTLRは、細胞内シグナル伝達経路を介して、転写因子であるIRFやNF-κBを活性化し、それぞれIFN-α、IFN-βまたは、IL-1、IL-6、IL-8などサイトカインを誘導し、獲得免疫、あるいは炎症を誘導する。

細菌は、ファゴサイトーシスで取り込まれて消化され、その抗原はヘルパーT細胞(CD4+ T細胞)に呈示される。
ウイルス因子に対しては、インターフェロン(抗ウイルス活性をもつサイトカイン)を産生する。
感染細胞はタンパク質産生を中止し、アポトーシスに至る。






TNF-α
腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor, TNF)は、サイトカインの一種であり、狭義にはTNFはTNF-α、TNF-β(リンホトキシン(LT)-α)およびLT-βの3種類である。
TNF-αは主にマクロファージにより産生され、固形がんに対して出血性の壊死を生じさせるサイトカインとして発見された。
腫瘍壊死因子といえば一般にTNF-αを指していることが多い。これらの分子は同一の受容体を介して作用し、類似した生理作用を有する。

TNF-αは主に活性化されたマクロファージによって産生される他、単球、T細胞やNK細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞も産生源となる。

TNF-αは細胞接着分子の発現やアポトーシスの誘導、炎症メディエーター(IL-1、IL-6、プロスタグランジンE2など)や形質細胞による抗体産生の亢進を行うことにより感染防御
や抗腫瘍作用に関与するが、過剰な発現は関節リウマチ,乾癬などの疾患の発症を招く。



TPA(組織ポリペプチド抗原、tissue polypeptide antigen)
TPAは細胞内の骨格を構成している構造たんぱく質であり、正常組織にも広く分布しているため、特異性の低い腫瘍マーカーです。
血中TPAは多くの悪性腫瘍で陽性を示すが、反面良性疾患における疑陽性率も高い。
しかし、癌の進行度に関連して測定値が増減するため、治療効果の判定や再発の予知などに用いられます。


Treg細胞(制御性T細胞・調節性T細胞)
免疫応答の抑制的制御(免疫寛容)を司るT細胞の一種。
免疫応答機構の過剰な免疫応答を抑制するためのブレーキ(負の制御機構)や、免疫の恒常性維持で重要な役割を果たす。
制御性T細胞の発生には、Foxp3誘導のほか、それとは別系統のTCR(T cell receptor)刺激によるDNAの配列変化を伴わない遺伝子機能の変化(エピジェネティクス参照)により、T細胞が制御性T細胞に分化すると考えられる。

分類・機能
免疫系の機能は自己と非自己を区別して非自己を排除することであり、免疫系の過剰な働きによって生じる自己反応性によって自己免疫疾患に陥る。
制御性T細胞は免疫系の崩壊を抑制し、免疫異常から生体を守っている。
また、Tregは自己免疫のみでなく炎症や腫瘍免疫、感染免疫などについても抑制作用を示すことが明らかになっている。

制御性T細胞が免疫抑制作用を発現するメカニズムは未だ十分に明らかになってはいないが、細胞同士の直接的な相互作用あるいは抑制的サイトカインであるTGF-βおよびIL-10の放出によると考えられている。
Tregのサブセットの代表的なものとしては以下のようなものが知られている。

内在性Treg
Foxp3+CD25+Treg
NKT細胞(Natural Killer T細胞)
CD8+CD122+Treg

誘導性Treg
Foxp3+Treg
タイプI Treg(Tr1)
Qa-1a拘束性CD8+Treg

発生・分化機構
胸腺で分化した新生T細胞は未熟な状態であり、CD4抗原もCD8抗原もなければ(ダブルネガティブ、DN)T細胞受容体(TCR)も有していない。
DN細胞はCD8+シングルポジティブ(SP)細胞を経てCD4+CD8+T細胞(ダブルポジティブ(DP)細胞)へと分化していく。
これらの過程中においてTCR遺伝子の再編成が行われ、TCRの多様性の形成が行われていくが、中には自己抗原に対して反応性を示すものも産生され自己免疫疾患に陥る可能性がある。
そのためこれらのクローンを除去するためにポジティブセレクションおよびネガティブセレクションと呼ばれる、いわば適切なT細胞のみを分化させるためにふるいにかけるようなことが行われる。

ポジティブセレクションは胸腺の皮質で行われ、CD4+CD8+T細胞の中から外来性抗原に対して反応性を持つTCRを有するものを選別する機構である。
一方、ネガティブセレクションとは自己抗原に対して反応性を持つ細胞を選別する反応であり、ネガティブセレクションを受けた細胞はアポトーシス(自発的細胞死)に導かれこの段階で通常脱落していく。
制御性T細胞もそのほかのT細胞と同様に独立した系列として胸腺内で分化していくと考えられている。

未成熟T細胞は胸腺上皮細胞による自己抗原の提示を受けてFoxp3を発現し、CD4+CD25+Tregへと分化が誘導されることが知られている。
Foxp3はIPEX(Immune dysregulation, Polyendocrinopathy, Enteropathy, X-linked)症候群患者およびscurfyマウスにおける自己免疫疾患の原因遺伝子として同定された。
Foxp3はFoxp3+CD25+Tregへの分化およびその機能に関与する遺伝子である。
一方、末梢においてもTGF-βの刺激を受けることによってFoxp3の発現が誘導されることが報告されており、IL-6とTGF-βの共刺激によってTh17細胞への分化が促進されてしまうためにTregへの分化は抑制される。

2012年2月10日
独立行政法人 理化学研究所
制御性T細胞はFoxp3発現を記憶する
−免疫疾患の新たな治療法開発を後押しできる成果−
ポイント
・制御性T細胞と「マスター転写因子」Foxp3の定説を覆す
・制御性T細胞にはFoxp3発現を記憶する潜在型がある
・Foxp3発現の記憶にはDNA脱メチル化が重要

要旨
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、免疫応答を抑制する働きをもつ制御性T細胞が、さまざまな状況に置かれてもヘルパーT細胞へと分化せずに安定的に分化した状態を維持することを発見しました。
またその安定性を保つためにはFoxp3遺伝子のDNA脱メチル化が重要であることを突き止めました。
これは理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)免疫恒常性研究ユニット堀昌平ユニットリーダーらを中心とする国際共同研究グループの成果です。

制御性T細胞は、自己免疫疾患やアレルギー疾患など過剰な免疫応答を抑制する働きがあり、この機能を利用した免疫疾患の治療法が世界中で研究されています。
これまで制御性T細胞は“マスター転写因子”であるFoxp3が特異的に発現し、その発生・分化と免疫抑制機能がコントロールされると考えられてきました。
一方、2009年に免疫恒常性研究ユニットらは、Foxp3を発現したT細胞※1(当時は制御性T細胞と解釈)がある環境下に置かれるとFoxp3の発現を失って免疫応答を促進するヘルパーT細胞へと分化することを報告しました。
制御性T細胞は体内で安定的に存在すると考えられてきましたが、この報告をきっかけに環境変化に対する制御性T細胞の安定性について論争が起きるとともに、制御性T細胞を用いた免疫疾患治療の有効性と安全性にも疑問を投げかけることになりました。

今回、研究グループは、マウスを用いてフェイトマッピング解析を行って、Foxp3を発現しているT細胞(Foxp3+ T細胞)がどのような細胞に分化するのかを調べました。
その結果、Foxp3+ T細胞は制御性T細胞のほかにも非制御性T細胞を少数含むことが分かり、ヘルパーT細胞に分化するのは制御性T細胞ではなくFoxp3を一過的に発現する非制御性T細胞であることを突き止めました。
また、一部の制御性T細胞は一過的にFoxp3の発現を失うものの、それらはFoxp3の発現を記憶しており、活性化によって再びFoxp3と免疫抑制活性を発現する“潜在型”制御性T細胞であることを見いだしました。
さらに、制御性T細胞はFoxp3遺伝子の発現制御領域をDNA脱メチル化することによってFoxp3の発現を記憶して安定に分化した状態を維持していることが分かりました。

今回の成果は、制御性T細胞の安定性に関する論争に決着をつけるとともに、さまざまな免疫疾患の治療に用いることができる制御性T細胞の作製・誘導に道を開くものと期待できます。本研究成果は、米国の科学雑誌『Immunity』オンライン版(2月9日付け:日本時間2月10日)に掲載されました。

背景
免疫系は、生体内に侵入した細菌やウイルスなどの病原体を認識して排除し、病気や感染から生体を守る高度なシステムです。
このシステムでは、多種多様な免疫細胞群がお互いに連携しながら働いていますが、その応答が過剰になると正常な細胞や組織まで攻撃してしまい、生体に悪影響を及ぼします。そのため免疫応答は、アクセルとブレーキ機能をバランス良く保つことが重要です。

制御性T細胞は免疫応答を抑える機能を持ち、自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー疾患、移植片対宿主病や、移植臓器に対する拒絶反応などで起こっている過剰な免疫応答を抑制する重要な役割を担っています。
2003年に現免疫恒常性研究ユニットの堀ユニットリーダーらは、ヒト自己免疫疾患(IPEX症候群)の原因遺伝子として同定された転写因子Foxp3が制御性T細胞の“特異的な”分子マーカーであり、その発生・分化と免疫抑制機能を司る“マスター転写因子”であることを明らかにしました(Hori et al., Science, 2003)。

これまでの研究から制御性T細胞は安定にFoxp3を発現することでさまざまな状況に応じて免疫応答を抑制することができると考えられてきました。
そして、この広範で安定な免疫抑制機能を利用して、制御性T細胞を移植する免疫疾患治療法の試みが世界中で行われています。

その一方で、2009年に免疫恒常性研究ユニットらは、Foxp3を発現しているT細胞(Foxp3+ T細胞)を、T細胞を持たない変異マウスに移植した場合や、炎症環境下に置いた場合に一部がFoxp3の発現を失って免疫応答を促進するヘルパーT細胞へと分化することを見だしました(Komatsu et al., PNAS, 2009; Tsuji et al., Science, 2009)。
当時、この成果は、制御性T細胞がヘルパーT細胞に分化するという衝撃的な発見でした。その後、このFoxp3+ T細胞がヘルパーT細胞へ分化するという現象は、他の研究グループからも報告されましたが、それに対する反証も報告され、世界的に大きな論争を引き起こしました。

また、外的要因により制御性T細胞がヘルパーT細胞へ分化するならば、免疫疾患の治療のために用いた細胞が期待とは逆に疾患を悪化させることにつながりかねません。
ヘルパーT細胞が制御性T細胞に分化するという可能性は、制御性T細胞を用いた免疫疾患治療の有効性と安全性に疑問を投げかけるものでもありました。
そこで研究グループは、制御性T細胞の安定性を巡る論争に決着をつけるために、Foxp3+ T細胞の分化の仕組み解明に挑みました。

研究手法と成果
研究グループはフェイトマッピング解析と呼ばれる手法を正常なマウスに適用して、Foxp3の発現の有無と制御性T細胞の分化の関係性について調べました。
通常、T細胞は抗原と他の様々な因子によって活性化されることで、ヘルパーT細胞や制御性T細胞へ分化します。
この手法でFoxp3を現在発現している細胞を緑色蛍光タンパク質(GFP)で、一度でもFoxp3を発現した経験を持つ細胞を赤色蛍光タンパク質(RFP)でマーキングすることができます。
例えば、Foxp3+ T細胞がFoxp3の発現を失えば、それらの細胞はGFP-RFP+細胞として検出することができます。
この実験の結果、T細胞のうちFoxp3を発現しているT細胞(Foxp3+ T細胞)の約3〜5%の細胞がGFP-RFP+であり、ヘルパーT細胞に分化することが分かりました。
次に、正常なマウスのFoxp3が発現していないT細胞(Foxp3- T細胞)を活性化することでFoxp3の発現の有無について調べました。

Foxp3-T細胞のなかから抗原に出会ったことのないナイーブT細胞だけを選別して活性化すると、約10%の細胞がFoxp3を発現することが分かりました。
しかも、このような活性化によって誘導されるFoxp3+ T細胞は、制御性T細胞とは異なった遺伝子発現を示すことや免疫抑制活性を有さないこと、またこのFoxp3の発現は不安定で、サイトカインなどのシグナルによって容易に失われることを発見しました。
つまり、Foxp3は制御性T細胞以外の通常のT細胞においても一過的に発現され得るという予想外の事実を発見しました。

さらに、Foxp3-T細胞の移植実験と上記のフェイトマッピング解析を用いた実験を行ったところ、Foxp3-T細胞を移植された細胞から免疫抑制活性を持たない不安定なFoxp3+T細胞(非制御性T細胞)が誘導され、T細胞欠損マウスや炎症環境下ではヘルパーT細胞はこれらからのみ分化することを見つけました。
一方、免疫抑制活性を示す制御性T細胞を同様の環境に置いてもヘルパーT細胞へ分化することはありませんでした。
そして、一部の制御性T細胞は一過的にFoxp3発現を失うものの、活性化させると再びFoxp3と免疫抑制機能を安定に発現するようになり、これらは“潜在型”制御性T細胞であることが分かりました。
つまり、制御性T細胞は、Foxp3発現を記憶していることが明らかになりました。。

そこで、制御性T細胞における頑健なFoxp3の発現と、免疫抑制機能を持たない非制御性T細胞の一過的なFoxp3の発現とでは何が異なるのかを調べました。
その結果、Foxp3遺伝子の発現制御領域のDNAメチル化状態が大きく異なることを見だしました。
制御性T細胞ではFoxp3発現の有無に関わらず、この領域が完全に脱メチル化されることで遺伝子が常に発現可能な状態に保たれているのに対し、一過的なFoxp3発現を示す非制御性T細胞では、Foxp3を発現するのにも関わらず完全にメチル化されており、遺伝子が不活性化状態であることがわかりました。
つまり、制御性T細胞におけるFoxp3発現の記憶はFoxp3遺伝子の発現制御領域のDNA脱メチル化によってコントロールされており、制御性T細胞はこの記憶のメカニズムによって安定に分化状態を維持していることが分かりました。

今後の期待
今回の成果は、ヘルパーT細胞は制御性T細胞から分化するのではなく、Foxp3を一過的に発現する非制御性T細胞から分化することが示されたように、Foxp3+ T細胞集団には様々な種類の細胞が含まれていることを証明し、制御性T細胞の安定性を巡る論争に決着をつけることができました。
また、制御性T細胞はさまざまな環境においてもFoxp3の発現を記憶して免疫抑制機能を発揮することが分かり、本成果は制御性T細胞を利用した免疫疾患治療法を科学的に後押しすることとなります。
またこれまでは、「Foxp3が制御性T細胞の“特異的”分子マーカーでありその“マスター転写因子”である」という過度に単純化された概念が主流でしたが、Foxp3が制御性T細胞の分化と関係なく発現し得るという発見は、これまでの学術界の定説を覆すものとなります。
今後は、頑健なFoxp3発現を誘導するメカニズムの解明を目指します。
将来的に安定な免疫抑制活性を備えた制御性T細胞を人為的に作製・誘導することが可能になれば、免疫疾患の治療に大きく貢献すると期待できます。

補足説明
1.制御性T細胞
ヘルパーT細胞、T細胞T細胞は、T細胞レセプターと呼ばれるタンパク質を細胞表面に持ち、このレセプターを介して異物を特異的に認識して活性化する。
T細胞はその働きから、 ウィルス感染細胞やがん細胞などを特異的に殺すキラーT細胞、B細胞やマクロファージ(食細胞)などほかの免疫細胞に働きかけてその機能を活性化するヘルパーT細胞に大きく分類されてきた。

さらに最近、T細胞には、ほかの免疫細胞(キラーT細胞、ヘルパーT細胞、B細胞、マクロファージなど)に働きかけて その活性化を抑制する機能を持つ制御性T細胞と呼ばれる新たな集団が存在することが明らかにされた。
制御性T細胞はリンパ組織中、T細胞の約5〜10%を 占め、転写因子Foxp3の発現により、ほかのT細胞と区別されてきた。
しかし、今回の研究成果によりFoxp3を発現していても制御性T細胞でない場合もあることが分かった。

2.DNA脱メチル化遺伝子発現の制御様式の1つ。
DNAのCpGという配列でシトシンにメチル基が付加される修飾をDNAメチル化という。
遺伝子が発現されるか否かを制御している領域がメチル化されると、その遺伝子は不活性化されて発現されなくなる。
逆にメチル基が除去される過程を脱メチル化といい、不活性化されていた遺伝子が活性化され発現されるようになる。

3.マスター転写因子
特定の細胞種に分化するためには、その細胞特有の機能を発現するために必要な一群の遺伝子セットを発現することが必要である。
一般に遺伝子の発現は、遺伝子発現制御領域である特定のDNA配列に転写因子と呼ぶタンパク質が結合することで調節されている。
細胞分化に伴ってある特定の転写因子が遺伝子発現制御領域に結合することで、その細胞種に特有の遺伝子セットの発現がオンになると考えられ、そのような最初のスイッチとして機能する転写因子をマスター転写因子と呼ぶ。

4.Foxp3
ヒトの遺伝性免疫疾患IPEX症候群の原因遺伝子として2001年にワシントン大学のChatilaら、ワシントン州立大学のBennett ら、オレゴン保健科学大学のWildinらの研究チームが報告した転写因子。2003年に堀昌平ユニットリーダーらにより、この転写因子が制御性T細胞に 発現する特異的な分子マーカーで、その分化と機能を制御するマスター転写因子であることが明らかとなった(Hori et al. Science 299: 1057-1061, 2003)。
しかし、今回の研究成果により、このような過度に単純化された概念に修正が加えられることになった。

5.フェイトマッピング解析
特殊な部位特異的遺伝子組換えの原理を使って、ある特定の遺伝子を発現した経験を持つ細胞を永久的に蛍光タンパク質などのマーカー分子で標識して、その細胞の挙動を追跡する解析手法。
この手法により、目的の遺伝子を一過的に発現してその後発現を消失してしまった細胞をマーキングすることができる。詳細はを参照。

6.ヒト自己免疫疾患(IPEX症候群)Immune dysregulation, Polyendocrinopathy, Enteropathy, X-linked(X染色体連鎖型免疫調節異常・多発性内分泌障害・腸症)症候群の略。
X染色体連鎖型劣性の遺伝様式を示し、変異を受け継いだ男子だけが致死性の自己免疫性・炎症性・アレルギー性免疫疾患を発症する。
膵臓、甲状腺、大腸、皮膚などさまざまな臓器に炎症・組織破壊が起こり、患者は通常生後1、2年以内に死亡する。
2001年にワシントン大学のChatilaら、ワシントン州立大学のBennettら、オレゴン保健科学大学のWildinらの研究チームがこの遺伝性免疫疾患の原因遺伝子を同定し、転写因子Foxp3であることを報告した。



フェイトマッピング解析について
(A)この手法は、Cre-loxP部位特異的組換え※を利用する。
まず、Foxp3遺伝子にGFP-Cre融合タンパク質遺伝子を導入した遺伝子改変マウス(a)を作製。
また、全身で常に発現するROSA26遺伝子にloxP配列で挟んだSTOPカセットとRFPタンパク質遺伝子を導入した遺伝子改変マウス(b)を共同研究者より入手した。
次に(a)と(b)を交配させる。
すると、Foxp3遺伝子が発現した場合、GFP-Cre融合タンパク質遺伝子も発現し、緑色の蛍光を発すると同時にCreがloxP配列を認識してSTOPカセットを部位特異的組換えにより除去して、RFPタンパク質が発現する。(GFP+RFP+)
また、Foxp3遺伝子が発現しない場合、GFP-Cre融合タンパク質遺伝子も発現しないので、CreがloxP配列を認識できず、STOPカセットの作用でRFPタンパク質遺伝子は発現しない。
(GFP-RFP-)過去にFoxp3遺伝子が発現したが消滅した場合は、ROSA26遺伝子は常に発現するためRFPは発現し続ける。(GFP-RFP+)
(B)T細胞でFoxp3遺伝子発現を誘導すると、GFPによって緑色の蛍光を発し、さらにRFPによって赤色の蛍光を発する。
Foxp3遺伝子を消失させると、赤色の蛍光だけが残る。
(C)このマウスのリンパ節を解析するとGFP-RFP+ T細胞が3-5%存在することがわかり(赤枠)、Foxp3発現を消失したT細胞が存在することがわかる。
※Cre-loxP部位特異的組換え バクテリオファージ研究で見出された部位特異的組換え反応。
loxPという特定のDNA配列を標的としており、DNA組換え酵素Creにより触媒される。
現在では条件的遺伝子ノックアウトを実施する目的などで広く使われる技術。



ナイーブT細胞の活性化に伴う一過的なFoxp3の発現
Foxp3-ナイーブT細胞が活性化する際、一部の細胞が免疫抑制機能を獲得することなく一過的にFoxp3を発現する。
この活性化によって誘導されるFoxp3の発現は不安定であり、炎症性サイトカイン(炎症を引き起こす物質)などの外部からのシグナルに応じて容易に失われる。
一方、制御性T細胞におけるFoxp3発現は頑健であり、さまざまな外的シグナルに対しても安定にFoxp3を発現して制御性T細胞として維持することができる。
そして、一部の制御性T細胞は一過的にFoxp3発現を失うものの、活性化によって再度Foxp3を発現し免疫抑制機能を発揮する(“潜在型”制御性T細胞)。



Foxp3+ T細胞集団には制御性T細胞と非制御性T細胞が存在する
ヘルパーT細胞は制御性T細胞から分化するのではなく、Foxp3を一過的に発現する非制御性T細胞から分化することが示された。
Foxp3+ T細胞集団は制御性T細胞の他にも少数だが非制御性T細胞を含むことが分かった。非制御性T細胞は、様々な外的要因に対してFoxp3を消失することでヘルパーT細胞へ分化し、炎症などの環境下では選択的に増殖することで蓄積する。
一方、制御性T細胞の分化状態は安定であり、外的要因に対しても安定にFoxp3を発現して制御性T細胞として維持できる。


VEGF(血管内皮細胞増殖因子)
血管がないところに新たに血管がつくられることや血管新生(既存の血管から分枝伸長して血管を形成すること)に関与する一群の糖たんぱく質で、腫瘍の血管形成や転移など、悪性化の過程にも関与しています。
英語の vascular endothelial growth factor から VEGFと呼ばれる。

癌のVEGFの産生促進
癌の病巣の特徴として栄養不足、細胞外の低pHそして血流が不足することによる酸素不足(低酸素)状態が生じ、癌細胞はこの厳しい環境下において新たに血管網を形成することにより病巣への血流を増加し低酸素状態を脱しようとする為にVGEFの産生を促進します。

血流の増加は転移経路の確保にもつながり、低酸素条件化においては転写因子である低酸素誘導因子(Hypoxia Inducible Factor、HIF-1α)が働き、種々の遺伝子の転写を亢進させます。

HIF-1αは正常酸素圧下でも産生はされるがたんぱく質分解酵素であるプロテアソームにより分解されてしまうため機能しません。

HIF-1αは細胞核内へ移行するとHIF-1β(Arnt)と結合します。

HIF-1αのAsp803残基はヒストンアセチル基転移酵素活性を持った分子複合体CBP/p300をDNA上のプロモーター領域である低酸素応答性領域(Hypoxia Responsive Element、HRE)へ運搬し、目的遺伝子の転写を促進します。

VEGFもHIF-1αによって産生が促進される分子の一つであり、血管新生の過程に関与します。
また慢性炎症は発癌のリスク要因であり、炎症に関与する転写因子NF-κBの活性化を介してVEGFの産生を亢進させます。

NF-κB:ストレスやサイトカイン、紫外線等の刺激により活性化され、免疫反応において中心的役割を果たす転写因子の一つで、急性および慢性炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなどの数多くの生理現象に関与している。
特に悪性腫瘍では多くの場合NF-κBの恒常的活性化が認められています。
日本冬虫夏草 ツクツクホウシタケはNF-κBを抑制する働きがあります。

血管新生の抑制をするには
インターフェロン及びインターロイキン-4はFGF(細胞増殖因子)の産生を抑制することにより内皮細胞の遊走・増殖を阻害する作用を持ちます。

また、p53遺伝子やPTEN遺伝子などの癌抑制遺伝子は血管新生を負に制御し、さらに、MMP阻害薬、VEGF受容体阻害薬及びPDGF受容体阻害薬などの薬物や可溶性VEGF受容体は血管新生阻害作用を示します。


Veionella属(ベイヨネラ属)
真正細菌の一属。
嫌気性のグラム陰性球菌
ヒトの口腔、消化管、膣の常在菌叢(normal flora)に含まれる
口腔内で最も多い菌種、歯垢、舌、唾液中に多い。
他の細菌と凝集し、歯垢の成熟化に関係している。
Veillonella parvulaが混合感染の一員として日和見感染的に病原性を示す。

代表的な菌
・Veillonella atypica
・Veillonella dispar
・Veillonella parvula

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